その男、武千代

38歳、モッズ系2児の父。

武千代VS胃部レントゲン検査

先日、と言っても昨年のことだが健康診断に行った。

 

前回までは検査項目の少ない、いわゆる「ヤング世代」の健康診断だったが、「35歳」を迎えた私は、今回から「アダルト世代」の健康診断を受診することになった。

 

「アダルト世代」は、「ヤング世代」の健康診断に比べ検査項目が多い。

 

今まで経験してこなかった「エコー」もあった。

女医さんがジェルを手に溜め、私のお腹に塗るシーンでは少し興奮したが、もちろんエコーを当てられて終わりだった。

 

 

今回から、「アダルト世代」の健康診断の中でも、諸先輩方からの悪評が特に高い「胃部レントゲン検査」も受診項目に入っている。

 

諸先輩方は、「発泡剤」というゲップが出るに決まっている薬を飲まされるのに検査中一切のゲップは許されず、「バリウム」というセメントみたいなものを飲まされた挙句、上下左右に動く受診台に寝かされ検査員からあっち向けこっち向けと無理難題な指示が出るという罰ゲームみたいな展開の最後に、バリウムが固まって体内に残ると危ないから下剤を飲んで真っ白い排便を強制させられるのだよ、とプルプルと震えながら私に教えてくれた。

 

しかも検診の途中でゲップが出てしまうとやり直しと言うから恐ろしい。出来ることならやりたくない。

 

 

健康診断の知らせが届き受診要項を読んでいると、「胃部レントゲン検査」は決して強制ではないと書いてあった。

 

なんと「胃部レントゲン検査」は回避出来るらしい。

 

この知らせに私は大いに迷った。

「胃部レントゲン検査」を受けるか、今回はパスするか。

 

強制なら諦めもつく。

やるしかないと、タカをくくれる。

 

しかし、選べるとなると話は変わってくる。

受診した方がいいのはわかっているが、諸先輩方から聞く限り容易な検査じゃない。

昨年、初めて「胃部レントゲン検査」を受診した同僚は今年はパスすると言っていた。理由を聞くと、「胃部レントゲン検査」を思い出したのか、彼もまたプルプルと震えていた。

 

散々逡巡した結果、私は「胃部レントゲン検査」を受診することにした。

 

私も35歳だ。もう若くない。「胃部レントゲン検査」で病気が見つかるかも知れない。今年発見されれば治療をすることも出来るかも知れない。逆に、受診しなかったことで手遅れになるかも知れない。

 

 

「胃部レントゲン検査」は健康診断の後半で姿を現した。

 

係の人に「胃部レントゲン検査」は初めてか?と聞かれたので、初めてだ、と答えると注意事項を教えてくれた。

概ね、先に書いた検査中はゲップするなとか、検査後は速やかに下剤を飲んで体内からバリウムを出すようにといった内容だった。

 

ふふふ、そんな事は知っているよと、私は余裕を持って了解した。

 

名前を呼ばれ、検査室の前の待合室に入る。

そこでは謎の白い液体(後でバリウムとわかった)が入ったボトルをグルグル回す機械がグオングオンと音をたて、さらには検査室からも検査台がグルグル回る音がグオングオンと響き渡る部屋で、私は一気に不安になった。なんだこの部屋は。恐ろしい。

 

プルプルと震えていると検査室が開き、憔悴した中年男性が出てきた。それが余計に私の不安をかき立てた。次は私の番だ。

 

検査室の中に入ると、なかなか気さくな感じのする検査員から改めて注意事項を聞かされる。先程よりも真剣に聞く私。

発泡剤を飲んだ後に検査台の上でグルグル回ってもらうけどゲップは絶対にしないでね、と気さくな感じで言われる。グルグル回る?それは聞いてない。

 

発泡剤を飲み、紙コップに入ったバリウムを受け取る。

 

重い。

 

私が今まで持った紙コップ飲料の中でも断トツに重い。イメージしていた紙コップの重さでなかったため思わず落としそうになった。そして、私はこの重たいものが飲めるか不安になった。

 

気さくな検査員は、グッといっちゃおう!一気に飲んじゃおう!と言う。

 

意を決してグッと一気に飲み干し、検査台にセッティングされる。検査員は検査台を操作する部屋に移り、スピーカーで指示を出すようだ。

 

検査台が横倒しになり、私は仰向けになった。もう辛い。ゲップが出そうだ。

 

気さくな検査員は、まず右に3回転してー、と指示を出してきた。私はゲップを我慢しながら右に3回転した。辛い。

 

次に気さくな検査員は、じゃあ今度は左に3回転しようかー、と指示を出した。おいおいそりゃねぇぜ、こっちはもうゲップが出そうでギリギリなんだぜ、さっきの右に3回転でもう限界だぜ。

 

辛いと思うけどゲップに我慢して頑張って回ってみよう!、と気さくな検査員に発破をかけられ必死で左に3回転する。

 

その後も左右に何度も回転させられ、回転のターンが済むと左に真横になれとか、もうちょい斜めとか繊細な指示のターンになり、最後は逆さ吊りになるというアクロバティックなターンを経て終了。呼吸をするとゲップが出そうだったので、途中から息を止めていたがあと少し検査が長かったら危なかった。検査が終わってすぐゲップが出た。

 

気さくな検査員に、初めてにしては上手でしたねー、とよくわからない褒められ方をして、えー、そうですか、へへへ、と私もよくわからない返事をしてしまった。

 

 

数週間後、検査結果が来た。「胃部レントゲン検査」で特には異常は見られなかった。ほっと安堵し、受診して良かったと思っていると、別の封筒も渡されそこには血液検査でピロリ菌の疑い有りとの記載が。

書面にはピロリ菌がいるかどうか「内視鏡検査」が必要と書いてある。

 

内視鏡検査」

 

諸先輩方からこれもめちゃくちゃ辛いって吹き込まれ、怖くてまだ行けてないのです。